水彩覚書番外編:万年筆の染料インクと顔料インク

以前読んだ本で、染料と顔料の違いは溶媒に溶解するか否かであり、染料は被染体と粒子ではなく分子状態で結合していると知りました。ところで、万年筆用のインクには染料インクと顔料インクがあり、顔料インクの方が耐水性に優れています。その点が水彩絵の具についてのわずかな知識しかない自分には納得できず頭の片隅にひっかかっていました。そこで調べてみたのですが、結局知りたいことについての記載は見つけられませんでした。最後の部分は推測となりますが、ひとまずこの記事を公開します。

染料と顔料のおさらい

染料と顔料の違い

繰り返しになりますが、染料と顔料の違いの1つ目は染料が溶媒に溶けるのに対して、顔料は溶けずに液体の中で分散していることです。雑な例え方をすれば塩水と牛乳の違いのようなものでしょうか。2つ目は染料は分子状態で科学的、物理的に被染体と結合しているのに対して顔料は粒子の状態であることです。

染料の染色方法

ところで染料を染色方法で分ける方法があるそうです。たとえば直接染料はファンデルワールス力によりセルロース繊維に親和性のある染料です。建染染料は染色の際はアルカリ溶液に可溶な化合物としてセルロース繊維に染着させ、酸化により繊維上で不溶性の染料に戻します。藍染めの原料のインジゴはこの建染染料に分類されます。

個人的には染料は染色後は不溶性のイメージだったのですが、どうやら全てがそうなのではなく、いろいろな特性の染料があり、染色の際はそれぞれ特性に合わせた工夫がされているようです。

万年筆インク

万年筆インクの成分

万年筆インクの主な成分は、色材、機能付与剤、水です。機能付与剤には界面活性剤、ph調整剤、保湿剤、防腐剤が含まれます。

万年筆インクの種類

万年筆インクは色材によって主に3つに分けられます。色材に染料を使う染料インク、顔料を使った顔料インク、鉄イオンとタンニン酸(あるいは没食子酸)が含まれる古典インクです。

染料インクの特徴

大多数のインクは色材に染料を使った染料インクです。

染料インクの長所は、選べる色数が多いこと、水に溶けるのでメンテナンスが容易であること、万年筆に与えるダメージが少ないことが挙げられます。

染料インクの短所は、乾いた後でも水に溶けてしまうので耐水性が低いこと、色材が染料なので耐光性が低いことです。また、紙や繊維の中に入り込むため、にじみやすいです。

顔料インクの特徴

顔料は水に溶けないため、顔料インクは顔料を細かい粒子にして分散させています。

顔料インクの長所は染料インクとは逆に水に溶けないので耐水性が高いこと、色材が顔料なので耐光性が高いことが挙げられます。また、紙の表面に付着するのでにじみにくいです。

顔料インクの短所は、一度乾くと水に溶けないので万年筆内部で乾燥させないよう取り扱いに注意が必要であること、染料インクと比べて色数が少ないことです。

古典インクの特徴

古典インクは昔ながらのインクで、鉄イオンとタンニン酸を含みます。書くと空気に触れることで酸化し、色が黒くなるのが特徴です。

長所は耐光性が高いことです。短所は酸性のため万年筆の金属部分を痛めてしまう可能性があること、色の数が少ないことです。

染料インクの耐水性が低い理由を考える

当初の疑問のうち1つ目、紙を染色するはずの染料インクの方が耐水性が低い理由、これは染料インクの染料は染色後も水に溶ける性質を持っているからだと思われます。万年筆に使うインクとしては水に溶ける方が万年筆のメンテナンスのしやすさの点で有利です。

顔料インクの耐水性が高い理由を考える

疑問の2つ目、顔料インクの耐水性がなぜ高いのか。水に溶けないからというのも確かに理由にはなるでしょう。しかし、水彩絵の具の場合は顔料によっては乾いた後でも水を含ませることで色を取り除くこと(リフティング)ができます。顔料インクの紙との結合能力の高さはなにに依存しているのでしょうか?考えられる可能性としては紙との結合能の高い顔料が使われているのではないかということ、もう1つの可能性としては水彩絵の具と比べて強い固着剤を使用しているのではということです。ただし、参考にした本には万年筆のインクの成分として固着剤は載っていませんでした。

おわりに

わたしはスケッチ用の万年筆にはプラチナのカーボンブラックインクを使ってきました。今回、プラチナの顔料インクブランセピアを購入し、その耐水性に感心したのですが、同時に、なぜ顔料インクに耐水性があるのか疑問に思いました。

結局当初の疑問は解決できませんでした。今後なにかわかりましたらこの記事に追記したいと思います。

参考にした本

トコトンやさしい染料・顔料の本 (今日からモノ知りシリーズ)

色と顔料の世界

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